ライター 有川さんのコラム

「何を書いたらいいか分からない!」あなたへ

作文が苦手、そういう人は多いらしい。何を書いていいか分からない、書き出しが決まらない、書いてもすぐ終わってしまって言われた枚数まで書けない、構成をどうしていいか分からない……。作文が苦手だという子どもに聞くと、こんな声が返ってくる。ということで、ここでは作文を書くための、たった一つのコツを教えてあげよう。

「恋人への手紙のつもりで書こう」

はい、それだけ。え? 小学生だから恋人なんていない? でも、好きな人ぐらいいるでしょう。とにかく、自分が「一番好き」な人に向かって書く手紙のつもりで書けばいい。

文章を書くこと、それが自分だけの覚え書きや日記ではなくて読んでもらう相手がいる文章であるときは、二つのことに気をつけなきゃいけない。

① 読んでくれる人に分かってもらうように書くこと

② ウソを書かないこと

①は、説明するのが難しいものを書かなきゃいけないとき、特に気をつけたい。学校で作文を書きなさい、と言われると、間違えちゃいけない、きちんと書かなきゃいけない、頭が良さそうに書きたい……というような「欲」が出ちゃうことが多い。そうすると形にとらわれて、本当に伝えなければいけないことを書き落としてしまうことがある。

例)遠足でスカイツリーへ行きました。スカイツリーは2012年に墨田区にできた日本一高い電波塔です。下の方にはショッピングセンターもあって、たくさんの人で賑わっています。僕らはまず展望台に行きました。展望台からは新宿の超高層ビルや、東京タワー、遠くの方には富士山も見えました。

よく書けている。でも、何か面白みがないのでは? スカイツリーでこの「僕」にしか見えなかったもの、感じられなかったものが入っていないから、「僕」らしさが出てない。大好きな人に話すときにはこんな説明のような書き方はしないだろう。

例)スカイツリーの天望デッキは地上から三五〇メートルの高さにあります。そこからは東京全体どころか関東平野、そして富士山も見えるんです。僕の友人は横浜に住んでいます。見えるわけは無いけど、先生に教えてもらって望遠鏡で一生懸命横浜の方を見ました。すると、ランドマークタワーが見えました。

あの近くに××さんがいるんだ。「おーい、僕は君の住んでる街を見ているよ。君からスカイツリーの僕が見えるかい?」ぼくは望遠鏡をのぞき込みながら小さくつぶやきました。

うん、このほうが書いている「僕」の気持ちがちゃんと伝わってくる。好きだけど、ちゃんと気持ちを伝えられずに離ればなれになってしまったのかな? それとも、ケンカ別れしてそのままになってしまったのかな? そんな風に「僕」と「君」の関係も、どんなものなのかあれこれ想像する楽しみもある。スカイツリーは遠くまで見える建物だってことも分かるだろう。

そして、②のウソを書かないということ。「ここでこう書くと先生のウケがいいだろう」と思って、感動していないのに「感動しました」と書いたり、思ってもいないのに「世界で一番大事なことは愛です」なんて書いてみたり。そういうウソは、読んでみるとすぐ分かる。文章が薄っぺらになって、誰の心にも残らない。だいたい、書いている自分が一番おもしろくないはずだ。

恋人に伝えるなら、どんな言葉を使うだろう? 今度作文を書くときはちょっと気にしてみて欲しい。そして、たくさんの言葉を知っていれば知っているほど自分が表現したい気持ちにぴったりの言葉を使えるようになる。

そのためにはぜひ本を読んで欲しいんだ。本は古今東西のさまざまな国、いろいろな文化の人たちが書いている。人間が感じることは昔から余り変わらないかもしれないけど、生きている状況や環境によって選ぶ言葉は変わってくる。その中には、今、作文を書こうとしている君が「言い表したいけどうまく言えない」ともどかしく感じている気持ちを表すのにぴったりの言葉もあるはずだ。うまく気持ちを言葉で表せて、人に伝えられるととっても文章を書くのが楽しくなる。その快感をぜひみんなにも味わってほしい。

ちなみに、この文章を書いている私が小学校三年の時に夢中になって読んだのは「ロビンソンクルーソー」と「十五少年漂流記」だった。遭難してたどり着いた無人島で、いろんな工夫して生きていく話にわくわくしたことは今も忘れない。私は島のことをたくさん本に書いているけど、もしかしたらこの2冊が大元にあるのかもしれないね。

 

 

 

 

 

 

有川美紀子

ライター・編集者 1962年東京生まれ。
「島」の自然環境やそこで暮らす人と自然の関わりをテーマにして取材を続けています。特に縁が深い小笠原は来島回数80回以上、住民だった時期もあり。著書に「小笠原自然観察ガイド」(山と溪谷社)「オガサワラオオコウモリ 森をつくる」(小峰書店)「アカガシラカラスバトの棲む島で」「おどろき!おもしろい!小笠原の生きもの」(ともに小笠原自然文化研究所)など。2018年には新しい小笠原の本を出す予定。