本郷の記憶を残したい
私は文京区で創業60年を迎える総合建設業の松下産業に勤めています。数年前、会社の仲間と地域活動チーム「文京・本郷まちかど遺産研究所(ぶんごうけん)」を発足させました。クラブ活動の大人版のような感じです。もともと建物をつくる会社なので、建築・設計・不動産とさまざまな専門分野のメンバーが集まっています。それぞれの仕事を通して得た知識を活かしてまちづくり、地域との関わり方を考え実践する、というチームです。
ここで少し本郷のまちについてご紹介します。このあたりは東京大学の学生や知識人、文豪が多く住み、菊坂には菊富士ホテルなど100軒以上の旅館や下宿がありました。本郷通りには都電が走り、古書店、洋食屋、喫茶店、商店がずらりと並んでいたそうです。大正12年の関東大震災の焼失をまぬがれた本郷5丁目菊坂界隈には、金田一京助・春彦旧居跡や、樋口一葉が使った井戸や質入に通った旧伊勢屋質店、路地裏や井戸端がひっそり残っています。
近年、都市化が一層進み、年々まちの記憶は失われつつあります。みなさんが大人になったとき、本郷のまちの記憶を未来へつないでもらうために私たちはなにができるだろうかと考える中で、さまざまな職業の人や学生が集まり、東京文化資源会議プロジェクト「本郷のキオクの未来」というチームができました。私たち「ぶんごうけん」メンバーもこれに参加し、記録を残すお手伝いをしています。
数年前に廃業した銭湯・菊水湯と旅館・朝陽館。私たちはこちらの建物の実測図をレーザーによるスキャンデータの撮影、3Dモデルとして記録しました。朝陽館は、ひと部屋を丁寧に解体し、いつか再建・再現できるようにと、部材、建具を保管しています。
また、この地区で長くご商売をされている方に、むかしの様子や暮らしを語っていただく会を開催し、記録を取っています。前回の会では、生後1ヶ月の赤ん坊から90代の蕎麦屋の女将さんまで幅広い世代の方が参加しました。
記録の保管場所をひとつにまとめて二次利用する、これを「アーカイブ」といいますが、私たちはこのアーカイブ化を続けてまちの記憶をみんなで活用できたらいいなと思い、活動を続けています。
会社の世界を一歩出てみると、建設業とは別の職種の方や、学校・学生、地元の方、国籍も様々な方と知り合い、さまざまな価値観にふれることができます。
みなさんも同じ学校、同じクラスにとどまらず、いろんな友だちをつくって、自分の「好き」や「楽しい」をたくさん見つけてくださいね。
文京・本郷まちかど遺産研究所
「ぶんごうけん」事務局
石口 麻衣子さん
【プロフィール】
新潟県生まれ。長岡造形大学造形学部環境デザイン学科卒。現在文京区本郷の総合建設業・松下産業に勤務。社内有志とともに地域活動チーム「ぶんごうけん」結成、事務局担当。
小学校の頃好きだったことは、地図を眺めること、家の間取りを描くこと。
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